7月3日、シーズン終盤を迎える
トキシラズの定置網漁に
同行させていただきました。
画像提供:木村船長
漁に同行させていただいたのは、
白糠さけ定第3号(代表 新保太平さん)の
木村船長です。
←木村太朗船長
(大きなカレイを手に記念撮影)
私が木村船長を知ったきっかけは、
船長が更新するInstagramの投稿でした。
シーズンを迎えたトキシラズ(以下トキ)にほどこす
「船上放血 神経抜き」の投稿に非常に興味を持ち、
同行取材のご相談をしたところ、
快く了承してくださいました。
船長、そして新保代表、
ありがとうございます!
出航午前3:30、天候は濃霧。
まだほの暗くて白い視界の中、
船に揺られること約30分。
最初の定置網が間近になり、
船長含む8名の漁師さんたちは、
それぞれテキパキと準備を始めます。
スペースに限りのある船上で、
自身の役割を的確にこなす皆様。
仲間の邪魔にならないよう
動いているのも、
さすが歴戦のプロフェッショナルです。
こちらは黄色いウェアの前田さん。
漁の際は、網の寄せ・送りの核となる
主要ロープをさばきます。
ロープさばきも笑顔も素敵です。
(濃霧で写真にふんわり効果)
網を手繰り寄せ、
片方をクレーンで釣り上げると、
次第に網の中の魚が水面に…。
と、漁師の磯部さんが、
たも網を手にしました。
どうやら網の中に、
トキがいる模様です。
魚体をあげる磯部さんに、
船長が駆け寄ります!
チームワークも素晴らしく、
阿・吽の呼吸であっという間に
準備が整いました。
左:磯部さん 中:前田さん 右:木村船長
トキを分厚いマット横たえ、
エラに刃を入れ動脈をカットし、
新鮮な水が流れ込む水槽に
そっと入れます。
まだ動いてる魚の心臓をポンプにして、
腐敗しやすい血液をすべて体外に放出する、
俗にいう「活〆」です。
続いて血抜き済の魚に
「神経抜き」を施します。
「神経締め」などの言葉を
聞いたことがある方もいると思いますが、
原理は同じです。
眉間のとある個所にニードルを刺し、
まず脳締め(脳を破壊)を行います。
この時パカッと口が開くと、
脳締めがきちんとなされている証。
開いた穴にワイヤーを押し入れて
脊髄を貫通します。
これが神経抜きです。
ワイヤーが到達した位置に沿って
ヒレや表皮が小さく蠕動しますが、
これこそ神経抜きが
きちんと施されている証だそうです。
ちなみにワイヤーを通すのは背骨の中ではなく、
背骨の上の脊髄です。
※白糠さけ定第3号公式Instagramより
「船上放血 神経抜きをほどこすことで、
今まで以上に高い鮮度を保持できます」
と木村船長。
その理由を、私なりにですが
調べてみました!
木村船長、不備・誤りがあったら
恐れ入りますがお知らせください!
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結論から申し上げますと、
「魚の鮮度を保つには、
魚体内のATP減少を抑えること」
が重要なんだそうです。
ATPってなに?
ですよね。
まず、魚が死んで腐敗するまでのステップを。
魚は死ぬと、
「①絶命→②死後硬直→③死後硬直解除→④腐敗」
という段階を踏みます。
①~④の数字が大きくなるにつれて、
鮮度がどんどん下がってしまいます。
続いて、ATPについて。
魚体には筋肉の収縮や発熱に重要な役目を果たす
ATP( アデノシン三リン酸 )という物質が
含まれていますが、
ATPは通常、呼吸による体内での
化学反応で補給されるそうです。
しかし魚が絶命してATPの補給が絶え、
魚体内に蓄積していたATPが
ある一定量より少なくなると、
筋肉を構成するタンパク質の
アクチンとミオシンが結合し、
死後硬直が始まります。
ちなみにこのATP、
魚の旨味成分の一つでも
あるんだそうです。
さらにATPは、生きているだけでも消費するうえ、
魚が暴れたりストレスを感じたりすると
激減してしまうんだそうです。
また、放血しても、脳締めで脳が破壊されても、
脊髄はまだ生きていて、ATPを消費します。
そこで、神経抜きによって脊髄を破壊することで
魚体内のATPの減少を極力抑え、死後硬直の始まりを遅らせる
=鮮度の良い状態を長引かせる、という原理。
つまり、「船上放血 神経抜き」を施すことで、
船上放血…暴れる(=主に筋肉内のATPが減る)のを防ぐ
神経抜き…脊髄のATP消費を抑制する
▼ ▼ ▼
WのガードでATPの減少を防ぐ
||
死後硬直が始まるのを遅らせる
||
太字①~②の時間が長くなる
||
高鮮度な状態が長く保持される
というわけなんだそうです。
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そして、高鮮度を追求する
木村船長のこだわりは他にも…。
<こだわり① スピード>
船長、たも網からビッチビチに元気なトキをキャッチ
↓
専用マットに魚体を横たえる
↓
エラから刃を入れ動脈をカット
↓
常に新しい水が流れ込む水槽に魚を入れて放血
この間、わずか10秒もかかりませんでした!
速い…速すぎです…。
水揚して即処置を施すことで、
暴れたりストレスなどで
ATPが減るのを極力防いでいます。
<こだわり② 処置時の扱い>
「船上放血 神経抜き」をほどこす魚は、
非常に丁寧に扱います。
たとえばトキなら定置網からたも網で
1尾ずつあげられ、魚体が痛まないように
専用の分厚い低反発マットに横たえ
動脈切断・神経抜きを行います。
「魚体を守るためですね。
特にトキは若いので、
うろこもはがれやすいんです」
と木村船長。
そんな優しさに包まれたい!
<こだわり③ 厳選>
「処置を施すのは、
魚体・状態の良い魚だけ」
例えば今期のトキだと
5月25日~6月30日の間に
水揚げされたのは4035本。
木村船長が「船上放血 神経抜き」を
始めた6月15日~6月30日の間に
水揚げされたのは768本。
そのうち「船上放血 神経抜き」を施して
市場に出荷されたのは、わずか34本。
つまり今期でいうと、
このプロジェクトがスタートしてから
白定さけ第3号が水揚げしたトキのうち、
わずか4.4%(34÷768=0.44)の選び抜かれたトキにしか
施されない技術なんです。
<こだわり④ 氷>
「保存するとき、魚は冷やせばいいってものではないんです。
冷やしすぎると身割れしちゃうし」
そこで梱包の際、
体に直接氷が当たらないよう
紙とビニール袋で包み、
氷は頭と尾にだけ配置。
これにより、冷えすぎによる身割れを防ぎ、
死後硬直の開始も遅らせることができます。
(温度も死後硬直に影響するそうです)
梱包した発泡スチロールの中を
ある一定の範囲内に保つのも、
鮮度を守る重要なカギと語ります。
(具体的な温度はマル秘です)
鮮度を保ち、身に悪影響をおよぼさない
ギリギリの氷の量を見極めるのもプロの技です。
※写真は撮影のためいったん氷を外した状態です
画像提供:木村船長
<こだわり⑤ 個別梱包>
通常、一つの発泡スチロールに
複数本の魚を入れることも
よくあるそうですが、
「船上放血 神経抜き」をほどこした
トキはかならず1本ずつ梱包します。
「中で魚同士が擦れて、魚体を痛めるのを防ぎます」と船長。
とにかく扱いがプレミアムです。
こだわりはまだまだありますが、
いったんここまでで…。
私が船上放血神経抜きの
トキを知った時、まず思ったのが
「すごい!食べてみたい!」でした。
同様に思う人、特に未知の美味に感度の高い
都市部の方から、非常に多くの関心を
集めるのではないでしょうか。
そんな木村船長。
この取り組みを行っているのは
白糠ではまだ白糠さけ定第3号のみだそうですが、
そもそもなぜ始めたんでしょうか?
「獲れた魚に付加価値をつけて、
浜値の向上に貢献したい思いもありますし、
魚のストーリーを良くしてあげたいという思いもありました」
魚のストーリーとは?
「獲った魚を美味しく
食べさせてあげられるのも、
そうでないのも漁師次第。
食べてハイ終わりではなく、
“白糠の魚って美味しい”と、
食べた人に思ってもらいたい。
獲られた魚の1割でも良くしてあげたい…
白糠の魚に感動してもらえるような…。
うん、上手に言えないんだけど」
一言ずつ、自身で確かめるような語り口に、
船長の誠実なお人柄がうかがえます。
準備期間に約1年を要したこの技術。
習得について聞くと、
「この技術は、根室の指導者に教わりました。
あるきっかけで「船上放血 神経抜き」を知り、
自分から連絡をとって教えてもらいました」
そしてなんとこの日、「船上放血 神経抜き」の
師匠にあたる根室の松田商店代表 松田英照さんが
白糠漁港にいらしていました。
左:木村船長 右:根室 松田商店 松田代表
「道東は活魚の出荷量が少ないという現状があります。
そんな中、“もう少し手を加えると、価値が上がる、取引値が上がる”
ということを、船上放血 神経抜きを通じて
これからも提案していきたいと考えています。
木村船長は技術面でも非常に優秀。
白糠の先駆者として、ぜひこれからも頑張ってほしいです!」
と松田代表がコメントをくれました。
最後に木村船長より
「白糠の魚が美味しいのは当たり前(笑)。
でも、まだまだ美味しくなる可能性があります!
リクエストがあればトキ以外でも
「船上放血 神経抜き」を施しますので、
ぜひご要望を聞かせてください」
魚をより良い状態で締めることで、
魚本来の美味しさを味わってもらいたいと願う熱い思いと、
漁業のさらなる可能性に賭けるチャレンジ精神、
そして、白糠の海への尽きない愛を感じました。
僭越ではございますが、
私もこれからも応援させていただきます!
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