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3月のライオンと5月の羊 March Lion and May Sheep

春をあらわす英語のことわざに、 March comes in like a lion, and goes out like a lamb. (3月はライオンのように荒々しい気候で始まり、

 子羊のように穏やかな気候で終わる)

というものがあります。

北海道の春は遅く、

少し前の春の訪れの際は、

まさにこのことわざのような

状態でした。


そして今、花萌える春真っ盛り。

北海道の東に位置する白糠町では、

羊の毛刈りの季節を迎えています。

ということでさっそく

北海道でも希少な羊専門牧場のひとつである

茶路めん羊牧場に行ってきました。



取材させてくださったのは、

取締役の鎌田周平さん。

急な取材依頼にもかかわらず、

笑顔で迎えてくれました。

ありがとうございます!


「ワンシーズンで大体、

 250頭ほどの毛刈りを行います。

 今年の毛刈りはもう終盤ですね」

と言いながら、天井からつるされた

バリカンに油を刺す鎌田さん。 柵の中にいるの大人の羊はすべて雌。 子供も混じっています。 「この子たちは今年の春に

 生まれた子羊です。  今は母親と一緒にいますが、

 毛刈りが終わればそろそろ

 夏の放牧準備に入ります。

 乳離れの時期ですね」 そして、柵の中に入ってササッと 羊をキャッチする鎌田さん。 は、速い!!!


そして、あっという間に

毛刈りが始まります。

「毛刈りのコツは?」と聞くと、 「見てると簡単そうですけど、  羊が暴れてしまうこともあります。  羊はおとなしくなる体勢があるんでが、  (その体勢は)それぞれ微妙に違うので、  慣れないとそこの見極めが難しいですね」 確かに鎌田さんがキャッチした羊は どの子もおとなしく毛を刈られています。



もちろん全く押さえないということは

ないのですが、脚を上げて毛を刈ったり

向きを変えるときだけ。 力で無理やり押さえつけて、 嫌がっているところを毛刈りする、 という光景はまったく見られません。




「品種改良によって、

 羊は毛刈りをしないと  どんどんそのまま毛が伸びていきます。  伸びすぎると重くなって

 生活しずらくなるので、  1年に1度毛刈りをします」

春先に毛刈りを行う理由を尋ねると、

「秋冬は寒いのでNG。

 逆に夏に毛刈りをすると、

 皮膚が熱い外気に直接触れてしまい、

 熱中症にかかりやすいんです」


なるほど!

野生の羊と異なり、

人の手で飼育されているひつじの毛は 人毛のように抜けおちたり、 生えかわらないんだそうです。 毛刈りをせずに放っておくと、 排泄をはじめ衛生面でも支障が生まれ、 重量が増せば生活そのものが

しづらくなり、場合によっては

命の危険を招いてしまいます。 年に1回の毛刈りは、羊が快適・安全に 暮らすために必要なんですね。 なんて言ってる間に羊はスッキリ! ものの3分もかかりませんでした。



さらに! 羊毛が1頭分すべてつながった状態で、 完成しました! なにこれ!スゴイです!! 羊の毛は複雑・繊細に絡み合っています。

素人や経験の浅い人がやると

表面から浅い部分しか刈れないため

刈った毛は短くなってしまいますが、

上手な人は羊の身体の線に沿って

根元からバリカンを動かすので、

このように1頭分つながった状態で

毛を刈ることができるんだそうです。


また、鎌田さんはものの3分ほどで

1頭の毛刈りを終えますが、

素人が行うと30分~40分はかかるといいます。

う~ん、プロフェッショナル!

毛刈りの時に気を付けているのは、

バリカンで羊を傷つけないこと。 「傷つけないのが大前提なんですけど、

特に首のあたりは皮膚が薄いから、 優しくやるように心がけてます」




こうして刈った毛は1頭で3~4kgも

あるそう。 「うちは刈った毛も有効活用したくて、  手つむぎが趣味の方やニット作家さんに  販売しています」 と言って、コマみたいな木製の 謎の器具を持ってきてくれました。 「これはスピンドルっていいます。  本当はきれいに洗って、

 流れも整えた羊毛でやるんですけどね」 と鎌田さん。

そして、羊毛を軽くほぐして、

指でくるくるっとまとめて スピンドルの先端の金具に絡ませ、

コマを軽く回しはじめました。 あっ!!

毛糸ができてます!!



「これ結構楽しくて。

 ずーっとやっちゃうこともあるんです」 私もやってみたい!!




あと不思議なのが、羊毛のしっとり感。

「刈ったばかりの羊の毛を触ると、

 結構しっとりしてるでしょう。

 これはラノリンといって、

 羊毛に付着している

 ワックス状の成分なんです。


「ラノリンの役割は、ウールと表皮を

 守ること。

 保水性が高く、 さらに精製したものは

 化粧品にも使われているんですよ」


うーん、奥深い羊の世界…。

無駄が全くないんですね。




鎌田さんは帯広畜産大学の

学生時代に、茶路めん羊牧場で

羊修行をしました。

そしてこちらで羊飼いをなりわいとし、 現在は役員として羊管理全般の

責任者として活躍なさっていますが、 学生時代はそれほど羊に

興味がなかったと言います。

羊飼いをなりわいに

しようと思った理由を伺うと、 「なんでしょうね、今はすっかり“沼”ですけどね」 と、笑顔で語る鎌田さん。

「なんだかんだ、羊がお好きだからでしょうか」 と聞くと、一瞬間が空いて 「こいつらがいる前で言いたくないけど、

 そうなんでしょうね」 「なんで言いたくないんですか?」


次の毛刈りに取り掛かりながら、 「だってそんなこと言ったら、

(羊たちが)調子に乗るもん」 なんだか素敵な関係性。


ほんの一瞬、はにかんだような鎌田さん。

その表情の奥に、 羊への愛情を感じました。

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茶路めん羊牧場は、

牧場公式サイト

オンラインショッピング専門サイト

があります。

前者は茶路めん羊牧場に関する

さまざまな情報に加え、

人と羊の関わりの歴史など、 読み物としても非常に興味深く、

楽しくてためになるテキストが豊富です。 後者では羊の肉はもちろん、

羊の脂を原料としたナチュラルな石鹸や、

作家さんが羊毛で編んだ靴下など、

羊の魅力を堪能できる品々を

オンライン販売しています。



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