「地元の上質な生乳をチーズにして
多くの人に提供し、
北海道に乳製品の食文化を発展させる」
という志のもと、2001年に創立された
イタリアンチーズ工房
白糠酪恵舎さん(以下酪恵舎)。
酪恵舎で作られるのは、
伝統的な製法で作られる
正統派のイタリアンチーズ。
この日、長期熟成チーズ「タンタカ」の
製造現場にお邪魔してまいりました!
※こちらの画像は
白糠酪恵舎 公式HPより
お借りしています
左:井ノ口代表 右:及川部長
全国に多くのファンを持つ工房なので、
すでにご存じの方も多いと思われますが、
ムービーを交えて製造工程をご覧いただく機会は
貴重なのではないでしょうか?
今回、代表の井ノ口さんをはじめ、
皆さまのご協力をいただき
撮影させていただきました。
酪恵舎の皆さま、
本当にありがとうございました!
※通常は窓からの見学のみ
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まずは、製造過程を拝見したチーズ
「タンタカ」についてご紹介します。
※イタリアンチーズについての詳細は、
酪恵舎さん公式HP
http://rakukeisya.jp/cheese_mamechishiki/italian_cheese/
をご覧ください。
タンタカの熟成期間は18か月で、
酪恵舎さんのチーズの中でも
最も長期間熟成させる、
超硬質チーズです。
イタリアンチーズの分類でいうと、
グラナ・タイプにあたります。
グラナとは、グラナ・パダーノという
チーズを意味するんだそうです。
※以下グラナ・パダーノの説明は、
私なりに調べたものです。
グラナ・パダーノが作られているのは、
アルプスに源を発し、イタリア北部を流れる
ポー側流域から、北部の山岳地帯までを含む
広大な地域。
ポー川の河口付近は湿地で、
13世紀に修道僧たちによる
大規模な灌漑がおこなわれ、
乳牛の多頭飼育が可能になったんだとか。
※画像はイメージです
土地の特徴や、
灌漑による酪農発展という歴史も、
なんだか釧路地域に
似ている気がします。
この一帯では11世紀ごろから
大型の超硬質チーズが作られていました。
それらはいずれも粒状の組織を有するため、
イタリア語で“粒状の”を意味する
「Grana(グラナ)」という
総称で呼ばれていた時期も
あったんだそうです。
Granaのひとつが
パルミジャーノ・レッジャーノであり、
グラナ・パダーノ。
Granaと呼ばれるチーズには
さまざまな種類があり、
それぞれ生産地や製法等が
少しずつ異なる部分もありますが、
ある意味「兄弟」と言える関係です。
そのおいしさと品質、そして
リーズナブルな価格から、
イタリアでトップクラスの生産量を誇る
グラナ・パダーノ。
パスタや野菜、肉料理、リゾットなど
幅広い料理にマッチし、イタリアを代表する
チーズのひとつと言われています。
グラナ・タイプのタンタカは、
豊富なアミノ酸が特徴。
奥深いうまみがあり、
すりおろしたり刻んだりして
コクを引き出したり
料理のまとめ役とするのはもちろん、
ワインのお供として楽しむのにも
ぴったりです。
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前置きが長くなりましたが、
タンタカ製造、始まります!
この日私が拝見したのは、
原料となる新鮮な白糠産の生乳を
釜で加熱殺菌するところから。
※実はこの前段階で、
生乳の成分調整を行います。
作るチーズによって
乳脂肪を除去・
あるいは加えるなど、
チーズ作りの下準備
ともいえる工程があります。
井ノ口代表、
逐一温度をチェック。
加温の時間もしっかり
計測しています。
工房内をぐるっと
見回してみました。
この釜、最大直径は
150cm近くあったと感じました。
二重構造になっており、
空洞部分に蒸気を入れれば加熱、
水を入れれば冷却と、
チーズの製造工程に合わせて
温度を変えられるんです。
使用する道具はすべて、
洗浄・殺菌済で、
台の上に準備されています。
こちらはタンタカづくりに
使用する乳酸菌です。
攪拌しながら加温した生乳に、
発酵を促す乳酸菌を加えます。
加温するのは、乳酸菌の働きを良くし、
ミルクを固めやすくするためです。
しばらくの間、加温と
攪拌を続けます。
表面に浮かぶ泡を
丁寧に除去。
乳を固める酵素(=レンネット)を
加えます。
液体から固体へ。
緩やかですが、
確実に変わっていくさまが
伝わりますでしょうか?
プリンのような、豆腐のような、
不思議な質感の柔らい固形物へと
変化しています。
この、ある程度固まった乳を「カード」、
水分を「ホエイ」と呼びます。
スタッフの藤原さん。
掌の感覚で状態を確かめます。
続いてスピーノという
専用道具でカットして、
カードを米粒くらいの
大きさにしていきます。
これは、カードとホエイを
分離させるための作業なのです。
※カードとホエイを分離させる理由は
後述させていただきます
カードを切らずにいる状態よりも、
カードを細かく切った方が
表面積が広くなります。
表面積が広くなれば、
カードからホエイが
よりにじみ出やすくなる
という原理です。
全体をまんべんなくカットし、
大きさをそろえて
均質になるようにします。
かき混ぜながら
釜の温度を上げていきます。
撹拌と加熱により
カードからホエイがにじみ出て、
固形物と水分の分離が進みます。
手作業でまだ残っている
大粒のカードをカットしていきます。
熱い釜の中に何度も何度も手を入れ、
大粒のカードが残っていないか
しっかりチェックしながら
カットしていくおふたり。
本当に丁寧です…!
ちなみにカードの大きさや
加温の時間・温度は、
作るチーズによって異なります。
より細かく、より高温に加熱するほど
水分が分離され、長期保存に耐えうる
固いチーズに仕上がります。
タンタカは、18か月という
長い期間熟成させるチーズ。
熟成させる前段階で
水分が多いままだと、
保存期間中にカビなどが
発生してしまいます。
カビの発生を防ぐために、
熟成に入れる前に
不要な水分(ホエイ)を
しっかり排出することが必要です。
そのためにカードを
細かくカットしているんですね。
この作業はチーズ製造工程の中で
職人の経験と感性が問われる
もっとも重要な部分のひとつと
いわれているそうです。
手の感覚で、カードの固さや
質感をチェックする井ノ口代表。
OKが出ました!
底の方に沈殿しているカードを
ある程度寄せてから
3等分にします。
藤原さんは、
カードをすくいあげる
麻布を準備します。
ホエイを排出する準備も。
もうお一人、
スタッフの方を加えた3人で、
麻布でカードを包んでいきます。
ここでホエイを
一部排出します。
ホエイは別名、乳清ともいいます。
こちらの名をご存じの方もいるのでは?
ホエイにはビタミンや
ミネラル、たんぱく質が含まれています。
そのまま捨てるわけではなく、
近くにある茶路めん羊牧場の羊が
飲むんだそうです。
資源を有効活用し、
羊の健康にも良いとは…!
底に残ったカードも
丁寧にすくって、
麻布に入れていきます。
原料を無駄にせず、
しっかり最後まで活かしきる。
皆さんの真摯な姿勢を
肌で感じます。
さらしを交換します。
釜の中をのぞくと、
このような状態です。
ホエイをすべて排出します。
3等分されたカードは、
こちらの型に入れていきます。
型枠に入れた時は
まだパンパンですね。
徐々に水分が抜けて、
表面が平らになって
いくんだそうです。
さらしを換えてから
型をたたいて直径を縮めます。
続いて重しをのせます。
しばらくこの状態をキープ。
その間、代表と藤原さんは
洗浄・清掃作業を行います。
時間がきたら
さらしを交換して…
天地をひっくり返します。
型枠の径を縮め、
ふたたび重しを乗せます。
私が拝見したのは
ここまでですが、
この後、塩を表面に塗ったり、
塩水に浸けるといった
加塩という工程に入ります。
加塩は雑菌繁殖による腐敗を
防ぐのが大きな目的です。
加塩を終えたら
セラーに運び、
チーズを熟成させます。
チーズやセラーのなかにいる
微生物や酵素が
たんぱく質を分解。
アミノ酸を作り出したり、
脂質を分解して脂肪酸などを
生成することにより、
チーズ独特の味と風味を
生み出します。
タンタカの食べごろは
18か月後。
丁寧な手仕事と
本物を追求し続ける
酪恵舎さんの想いが
チーズという形となって、
私たちを楽しませてくれます。
美味しくなって、
再び会える日が楽しみです。
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冒頭でもご紹介しましたが、
酪恵舎さんでは
我流のアレンジを加えず、
本場イタリアのチーズ製法を
守り続けています。
「正しい作り方で、
本当に良いもの、
質の高いものを作りたい」
という思いが根底にあることを
教えてくださいました。
酪恵舎さんでは、思い付きや
奇をてらったアイデアによる
話題づくりで注目を集めたり、
評価を得るようなことはしません。
代表自ら本場イタリアで学んだ、
そして、イタリアから招へいした
職人により身に着けた
「正しい作り方」で、
チーズ作りの本質を
日々追求なさっています。
酪恵舎さんで
使用する生乳は、
地元白糠の酪農家さんから
届いたしぼりたて。
今年前半コロナ禍で
学校が休校になり、
急激に牛乳消費が落ち込んだ際には、
長期熟成チーズの増産や
バター作りなどに取り組み、
地元産生乳の消費促進に
資源の有効活用という意味でも
尽力なさいました。
さらにSNSでの牛乳・乳製品の
消費を呼びかけ、
全国のチーズファンがこれに共鳴。
地域産業への貢献、
さらには全国の酪農振興にも
多大な影響を与えていらっしゃいます。
「チーズ作りを通じて、地産地消など
“地域の力を高める新世代の循環”を
作っていきたい」
とも語る井ノ口代表。
地産地消を活性化させるためには、
地域の皆さんに愛され選ばれる
①本当に良いものをつくること
②手に取りやすい価格であること
という2点が重要だと、私は考えます。
この2つを同時にクリアするのは
非常に難しいことだと思うのですが、
酪恵舎さんはたゆまぬ尽力により、
これらを実現なさっています。
「その土地の生乳を使った、
その土地ならではの
良いチーズを作ることで、
地域の役に立ちたい」
という熱い思いを抱く酪恵舎さんから
これからも目が離せません!
代表、そして酪恵舎の皆さま、
お忙しいところありがとうございました!
ぜひまた取材させてください!
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<余談>
私、15年前のトルコ旅行を機に、
ユーラシア大陸の家庭料理や食文化に
造形が深い、荻野恭子さんという
料理研究家の著作が好きになりました。
「いつかユーラシア大陸の
家庭料理めぐりをしてみたい」
「いろんな国の、その家の
家庭料理を一緒に作ってみたい」
「なんならしばらく居候したい」
「馬乳酒飲みたい…」
など思っていたある日、
書店で見つけた
≪人とミルクの1万年≫
という岩波ジュニア文庫。
速攻で購入しました。
いや~もう最高です。
内容を思い出しただけで
ワクワクです。
「人とミルクの1万年」の著者である
帯広畜産大学の平田昌弘先生。
実は、酪恵舎の井ノ口代表と親交が深く、
共働学舎の宮嶋望さんと、
帯広畜産大学の平田先生と、
酪恵舎 井ノ口代表とで、
3年くらいかけて
チーズの資料集を
作るプロジェクトが
進行中なんだそうです。
なんですって!
私、チーズ作りは門外漢ですが、
そのコラボ、ワクワク以外
何もないじゃありませんか!
酪恵舎さんとしての活動、
そして井ノ口代表個人の活動、
ぜひ両方追いかけさせてください。
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