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今回の記事は…
●前半
柳だこ漁の様子
●後半
・白糠町のたこ縄部会の皆さんの海を守る取り組み
・空釣り縄漁が環境に及ぼす好影響
という二部構成です。
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【 第一部/第五十八 拓洋丸 2021年4月某日の柳だこ漁 】
白糠町の代表的な海産物の
一つである柳だこは、
東京の豊洲市場をはじめ、
全国の目利きや一流の料理人など、
食のプロをも魅了する
町自慢の名産品です。
そんな柳だこ漁の
乗船取材をさせていただきました。
ご協力いただいたのは、
白糠漁協たこ縄部会 会長の
山田明さんと乗組員の皆さま、
そして山田さんの奥様の
弘子さんです。
左から2番目が山田さん、
その左隣が奥様の弘子さんです。
中央から右のお三方は
乗組員の皆さん。
中央は竹内さん、
右のおふたりは巣さん親子で、
右端はお父様の敏幸さん、
その左隣が息子さんの茂樹さんです。
(皆さん本当にありがとうございました!)
4月某日、
山田さんが船頭をつとめる
「第五十八 拓洋丸」に
乗せていただき、
午前3時、いざ出航となりました。
春を迎えたとはいえ、
この時間はまだまだ寒く、
気温はマイナス3~4度。
千葉育ちの私にとっては、
まったくもって冬でした(;^_^A)
まだ真っ暗な海を進むこと
約1時間、拓洋丸の漁場がある
西へと向かいます。
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ここで、白糠町の柳だこの
漁法について、初見の方向けに
ちょっと説明させてください。
白糠町のたこ縄部会の皆さんは
「空釣り縄」という漁法で
柳だこ漁を行っています。
空釣り縄漁とは
大正時代から続く伝統的な漁法で、
針を仕掛けた縄を海底に張り、
移動するたこを掛けて獲ります。
エサを使わないことも、
大きな特徴の一つです。
漁場には数か所の仕掛けを
設置します。
仕掛けの目印は、約1800mの間隔で
波間に漂う2本のブイ(浮標)です。
空釣り縄漁の仕掛け、
海の中の様子をイラストにすると、
こんな感じです。
イラスト:筆者作成(無断転載禁止)
※こちらは北海道総研の
資料をもとに、
筆者が作成したものです。
ちなみにざる一皿は
このような状態で
セットします。
こちらの仕掛けは、
山田さんを含む
乗組員の皆さん全員で
つくったり、
縄さやめ(※)を
行います。
一昨年、山田さんのお宅で
縄さやめの様子を
取材させていただきました。
ぜひこちらもご覧ください。
■当ブログ2019年12月27日記事「海の未来を守る~白糠町の伝統漁法~」
(※)縄さやめとは、
船にあげた仕掛けを
再び次回も使えるように、
針や糸を補修・整えることを
いいます。
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漁場に着くと、
乗組員の皆さんは
無駄のない動きで、
漁の準備に入ります。
仕掛けの先端の縄を
ドラムに巻き込み、
少しずつ引き上げていきます。
少しずつたこの姿が
見えてきます…。
どんどんあがってきます!
敏幸さん、手早く船の上に
あげていきます。
(音声ご注意)
この日は波のうねりもなかなか強く、
山田さん曰く
「海流が早いから、
海の中でたこが外れているかも」
とのこと。
それでも私から見たら、
かなりの柳だこが
あがっているように感じます。
吸盤の配置でオスメスが分かるので、
別々にキープしておきます。
1つの場所でおよそ
1時間半ほど漁を行い、
次の仕掛けがある場所に
移動します。
次第に夜も明けてきて、
周囲が明るくなり始めました。
敏幸さんから
茂樹さんに交代です。
「しげのあげ方、優しいんだよな」
と、山田さん。
私は全然素人ですが、
心なしか茂樹さんの竿さばき、
確かに優しく感じられます。
竹内さんも竿を手に
柳だこを
どんどんあげていきます。
竹内さんも早いです!
皆さん、とにかく
素早くあげていきます!
ちなみに引き上げた仕掛けは、
輪状にまとめていきます。
こんな感じです。
縄さやめをしやすいように、
ヤメ(針と糸)を外側に向けて
まとめていくのが、
絡まりにくくなる
コツなのだそうです。
山田さんによりますと、
「この作業をうまくできるか否かが、
後の仕事をスムーズを行うためにも
非常に重要」と語ります。
一定量まとめたら、
シートで包んで船首に
積んでおきます。
この日も感動したのですが、
乗組員の皆さんは常に、
漁具をきちんと片づけ、
ホースで汚れを流し、
船上を美しく整えています。
船の上という限られたスペースの中、
安全や作業効率を考えると
自然とそうなるのだと思いますが、
手が空いたら使っていないものは
すぐ片付け、済んだらすぐ
仲間のサポートに入るという、
チームワークがすごいのです。
「慣れだよ」と
拓洋丸の皆さんは語りますが、
仲間の動きと
周囲の状況に目を配り、
次の展開を予想して
最善の動きをするその姿から、
“漁師”という仕事の
プロフェッショナリズムを感じます。
今日の漁はこれで無事終わり、
続いて仕掛けを設置します。
空釣り縄の仕掛けを
海に放つ様子を捉えました。
手元寄りの
スロー映像もありますので、
ぜひご覧ください!
(音声ご注意)
設置も無事終えて、
港へ戻ります。
(音声ご注意)
やっぱりホッとしますね。
早速水揚げです。
山田さんによりますと、
この日の漁獲量は
「まぁまぁかな」とのこと。
(音声ご注意)
漁協のTさん、
早速計量台に運んでいきます。
今日もクレーンさばきが
鮮やかです!
拓洋丸の方はといいますと、
たこを入れていたケースを洗って
次の漁で設置する仕掛けを
積み込んでいます。
実は私、この日とても
船酔いしてしまい、
皆さんにご心配を
かけてしまいました。
(普段は結構、船強い方なのですが)
(;^_^A)
取材の間も
「(船室で)横になってていいよ」
「ここ揺れ少ないから座るといいよ」
と、優しいお気遣いを
いただきました。
お仕事中にも関わらず
皆さんにお気を遣わせてしまい、
誠に申し訳ございませんでした。
そして、心からありがたく
感じております。
拓洋丸の皆さん、
本当にありがとうございました!
はにかみ笑顔の敏幸さん
ナイススマイル茂樹さん
合間合間でさりげなく気遣ってくれた竹内さん
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【 第二部/たこ縄部会の皆さんの海を守る取り組み 】
前出の記事(2019年12月27日投稿)
でも少し触れていますが、
白糠漁協たこ縄部会では、
漁獲量の上限設定に加え、
40数年前から海を守るための
さまざまな取り組みを
実践していらっしゃいます。
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資源保護
■①「産卵礁設置」
1975年から柳だこの
産卵調査を行い、
その結果を踏まえて
試験的に産卵礁を設置。
1980年代なかばには
土管の産卵礁を投入、
そして最近は独自形状の
コンクリート製産卵礁を
設置しています。
道総研 水産研究本部によりますと、
白糠沖での産卵礁への
入礁・産卵率は高く、
その事業効果が非常に
期待されているそうです。
こちらが白糠沖に
設置されている産卵礁です。
(白糠漁協提供)
■②「放流サイズの再設定」
2009年度までの操業では、
1.5kgに満たない
小さな柳だこは放流し、
1.5kg~1.8kgの
固体は“小銘柄”として
出荷されていました。
しかし、平成 22 年度(※)の
操業では、
次世代の親だこを
育成する(=産卵数の増加)
ことを目的に、
小銘柄をなくして
出荷サイズを
1.8kg 以上とすることが
決まったのだそうです。
(※)2010年12月~2011年5月
小サイズのたこ放流の様子
(音声ご注意)
魚体の大きさで
捕獲/放流をコントロールしやすい
という意味でも、空釣り縄漁は
素晴らしい漁法だと感じます。
ちょっとここで余談です。
私はアウトドアブランドの
“パタゴニア”が好きなのですが、
同社の食品事業である
“パタゴニアプロビジョンズ”
のサイトで、空釣り縄漁と
共通点を持つ、
スペインの漁法に関する
記事を見つけました。
スペイン・サントーニャ地方の
名産品の一つ、タイセイヨウサバ。
サントーニャでは
白糠の柳だこ漁同様、
糸と針とロープのみで、
餌を使用しない
“アンスエロ”という仕掛けで
漁を行っているんだそうです。
アンスエロは1つの仕掛けに
最大で30個の釣り針が付いていて、
針にはサバが好む
小さな甲殻類に似せた、
赤いウール糸が
巻き付けられています。
アンスエロのメリットは
空釣り縄同様、混獲を防ぐなど
漁獲をコントロールしやすい
=資源管理がしやすいこと、
餌の使用による海洋汚染リスクの
低減などが挙げられます。
それで、タイセイヨウサバについて
少し調べてみました。
タイセイヨウサバは
ヨーロッパ各地で獲れますが、
その資源量は減少傾向に
あるとのこと。
そのためEUは、捕獲可能な総量や
サイズを制限しているのですが、
サントーニャのこの伝統漁法は、
空釣り縄漁同様、
漁獲のコントロールに
有益という観点から、
さまざまな行政機関や研究機関、
漁具開発メーカーや欧州の漁業者から
注目を集めているのだそうです。
世界にも空釣り縄と
共通点がある漁法があるんですね…!
EUの皆さん、実は日本にも
すごい漁法があるんですよ
フフフ。
■③「稚だこ保護区の設定」
たこ縄部会の皆さんは、
前浜の幅3マイルを
禁漁区として設定。
稚ダコが多いとされる
水深60メートル以浅も、
全面禁漁としています。
空釣り縄漁が環境に及ぼす好影響
続いて空釣り縄漁が
海洋環境におよぼす好影響について
お話しさせてください。
私が町広報誌に連載している
「ぬかづけ日記」の
2021年1月号にも書かせて
いただいたのですが、
本州以南でタコ漁といえば
たこ壺やたこ箱が一般的です。
しかも、そのほとんどが
プラスチック製です。
表面積が大きいため
海流の抵抗を受けやすく、
つないだ縄も切れやすい。
縄が切れるとそのまま海にとどまり、
回収が非常に困難です。
一方、たこ生息域の海底が
砂泥の白糠では、たこ壷設置すると
沈んでしまうため、
縄に枝糸・針・石(重し)・ガラス管(浮き)を
結んだ「空釣り縄」という仕掛けで
漁を行います。
空釣り縄は仕掛けの
表面積が小さいため、
海流の抵抗も少なく
紛失リスクも低い。
加えて漁の際、海底に届く針は
さまざまなゴミを捉えます。
その多くがプラスチックごみで、
操業を終える4月末~5月初旬までに、
まさに山ほどの量が回収されます。
ごみ回収の様子
現在、海洋環境だけではなく、
私たちの生活や健康に
大きな影響を与えることが
データとして確立されつつある
マイクロプラスチック問題。
漁を行うことで、
自然と海洋環境に
好影響を与えている空釣り縄漁は、
まさにこの問題の改善に、
大きな影響を与えうる、
素晴らしい漁法だと感じています。
白糠町たこ縄部会の皆さんによる、
資源保護と環境保護という
両輪での取り組みが功を奏し、
近年では年間500~600tという
安定した漁獲が
続いているのだそうです。
グラフ:筆者作成(無断転載禁止)
※こちらは北海道総研の統計資料
「マリンネット北海道」をもとに、
筆者が作成したものです。
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今回、私がとても驚き、
尊敬の念を抱いたのは、
船頭さん、漁師さんなど
たこ縄漁にたずさわる
「人」そのものです。
白糠町のたこ縄部会の皆さんは、
持続可能な漁業のために、
柳だこの漁獲量の上限を設定したり、
禁漁区を設けています。
漁獲サイズを制限しているので、
せっかく捕らえた柳だこも、
サイズが小さければ
前出の動画のように、
その都度必ず放流しています。
漁業者さんたちからみて、
獲物を獲り控えることは、
収入のチャンスを手放すこと。
それを乗り越えて
漁に関する取り決めを
部会の皆さんで
遵守するまでに、
さまざまな議論や葛藤が
あったのでは…と推されます。
「昔のたこ漁は
何の取り決めもなく、
早い者勝ちで
獲れるだけ獲るという
操業をしていたけど、
先を考えたらそれじゃダメ。
続かないって思ったんだ。
みんな生活がかかっているから、
初めから全員が
賛成してくれたわけじゃないし、
きれいごとばかりで
済んだわけじゃない。
でも、たこ縄部会全員で
取り組まなければ
資源を増やせないってことで、
みんなで何度も話し合って、
今の形になったんだ。
自分は部会長なので
音頭を取る形になったけど、
結局たこ縄部会のみんなの
理解と協力があってこそだよ」
と、山田さん。
たこ縄部会の皆さんは、
“白糠のたこ漁の未来のために”
という志をもって、
団結なさっているんですね。。。
漁の間も、仕掛けに
ごみが引っ掛かれば、
大きさに関わらず
全て引き揚げて持ち帰っています。
「ほかの船も徹底してくれている」
と山田さん。
「次の世代のために資源を守る」
という同じ目的に向かって
協力し合う白糠町の
たこ縄部会の皆さん。
漁業の未来のために
協力しあうその姿勢に、
心からの敬意を捧げます。
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【お知らせ】
コープさっぽろの
広報誌『 Cho-co-tto(ちょこっと)』
2021年3月号に、白糠町のたこ縄部会の
記事が掲載されています。
とても素晴らしい
内容となっていますので、
ぜひこちらもご覧ください。
◆コープさっぽろ広報誌『 Cho-co-tto(ちょこっと)』2021年3月号
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